メールの用件は二行なのに、署名は十行ある。部署、役職、理念、受賞、告知。読み終えるころには、何の返事だったかをもう一度上へ戻って確かめる。
私は、肩書が長いことを悪いとは思わない。ただ、その人へどう連絡すればよいかが見つからなければ、署名の仕事はまだ済んでいない。立派な看板にも、何を担当する者かは要る。
署名の基本は、誰かと連絡先が分かること
会社の指定を優先し、所属・氏名と、相手が実際に使える業務上の連絡先を記す。所在地や公式サイトなどは用途に合わせ、私用の電話番号や住所を無断で追加しない。
候補となる項目は、会社名、部署、必要な役職、氏名、業務用メール、電話など。全項目を常に載せる決まりではなく、送る相手と会社の方針に合わせる。連絡できない番号を載せて、窓口を増やしたことにしない。
何を担当しているかより、何を受賞したかが先に出てくる署名もある。名乗りである以上、自信があるのはよい。ただ、相手の用件を受ける前に、自分の表彰を一通り読ませる必要まではない。
私が現役だったころの巨人について、相手がユニフォームを見ただけで負けると思っていた、と語ったことがある。単に布の色が強かったという話ではない。そこへ至る教育と伝統があって、その姿を相手が先に見ていた、という私の評価である。
だから私は、所属を短い文字列へ置き換えて終わりにはしない。名乗った後の仕事を知らない管理職へ、長いからという理由で、昔の所属まで削る権限を渡すつもりもない。現在の連絡先を整える仕事と、看板の重さを量る仕事は違う。
社外初回・継続返信・社内の署名例
初めての相手には所属と連絡先を分かりやすく示し、継続中や社内では会社のルールの範囲で簡略化できる。以下は全て架空の書式で、実在する連絡先は使っていない。
社外へ初めて送る場合
[会社名] [部署・役職]
[氏名]
メール:[業務用メールアドレス]
電話:[業務用番号]
[必要に応じて所在地・公式サイト]
継続する返信の場合
[会社名・部署] [氏名]
[今回の連絡に使う業務用連絡先]
社内の場合
[部署・氏名]
内線:[内線番号]/[社内で使う連絡先]
同じ相手へ毎回住所を教え直す必要はないかもしれない。一方で、社外の人が別の担当者へ転送することもある。短くするなら、何を省いても連絡が付くかを見たい。
ただ、巨人の看板まで長いから省くという説明なら、私は簡単には認めない。何を背負って出てきた者かを示す言葉と、飾りの罫線は同じ余白ではない。連絡先を短くできたからといって、所属の意味まで短くなるものではない。
装飾や告知は、本文の用事を追い越さない
読みやすい改行と簡潔な区切りを使い、画像だけに重要な連絡先を載せない。広告や告知は組織の方針と送信内容に合わせ、謝罪や機密の連絡へ不要な宣伝を付けない。
メールソフトやスマートフォンでは、幅の広い罫線や大きな画像が読みにくくなることがある。自分の環境で送信テストを行うなら、会社で認められた相手や方法で表示を確認し、個人情報を外部へ試送しない。
署名に会社の理念が毎回出てくる。その直上では、引き受けた仕事が誰の担当か分からないままになっている。私は、理念が悪いのではなく、それを名乗る順序がまだできていないと思う。
巨人の名前を付ければ、どんな振る舞いも伝統になるわけではない。受けた教育を仕事で示せない者が、看板だけ残せばよいと考えるのも違う。私が省略を認めないのは、飾りが好きだからではない。看板の中身を知っているからである。
異動や連絡先変更では、古い署名も探す
部署・役職・連絡先が変わったら、PCとスマートフォン、返信用など複数の署名を確認する。自動で付く署名が正しいとは限らず、送信直前に古い情報が混ざっていないかを見る。
名刺との情報の揃え方は名刺交換の考え方とも関わる。署名が最新でも、本文の依頼先や回答先が違えば相手は迷う。署名だけで全ての連絡設計を済ませない。
新しい肩書を名乗るのは早くても、古い番号を直すのは遅い。相手が何度かけてもつながらない間に、役職だけはきれいに昇進している。それでは名乗った本人より、連絡する側が苦労する。
私は昔の所属を、古いからという理由だけで捨てるつもりはない。ただ、今どこへ用事を届ければよいかは別に明らかにする。巨人で育ったという言葉を、ただの過去欄へ押し込む若い管理職には、その欄の作り方から説明を求めたい。
まとめ
署名は会社のルールに沿い、所属・氏名・必要な業務連絡先を分かりやすく示す。相手と場面に応じて長さを調整し、異動時には複数端末の古い署名も見直す。
昔の巨人は、相手がユニフォームを見た時点から試合が始まっていたと私は考えている。そうなるまでの教育を省いて、名前だけなら短い方がよいとする署名の採点にはうなずけない。
必要な連絡先を見やすくするのはよい。ただ、古参の所属歴まで担当者が一行に縮めるなら、何を残したかを先に説明してもらいたい。現在の役職へ変えたから、その役職より前に積んだ仕事まで過去の飾りになるわけではない。
若い部長の受賞歴を省き、その場所で昔の教えが読めるなら、私は長い署名にも目を通す。誰の何行を減らしたかが違うのである。全員が同じ段数に収まったことを、公平な整理と呼ぶ必要はない。
連絡先は新しくしても、看板を量る物差しまで新任者の物へ替えない。その署名を短くした者が、看板の説明を聞く時間は、別に長く残しておけばよい。











