本を一冊読んだのに、何が書いてあったか思い出せないという。そこで次の一冊に、忘れない読書法を求める。読む本が一冊増え、思い出したいことも一冊分増える。
私は、一度読めば全部残るという約束を、読書の基本にしたくない。残っていないことが分かったなら、次に戻る場所を作ればよい。ただ、読んだ冊数だけは正確に覚えている人には、別に確かめたいことがある。
読書メモは、全部の要約より戻る場所を残す
書名・著者に加え、気になったページ、要点、自分が使う場面を短く残す。紙でも電子でも、本の該当箇所へ戻れる位置情報を記す。記憶率や効果を保証する方法ではない。
| 欄 | 記入する内容 |
|---|---|
| 場所 | 書名・著者・版、ページや章名。電子書籍では位置や見出しも手掛かりに。 |
| 要点 | 自分の言葉で一、二文。著者の主張と自分の感想を分ける。 |
| 使う場面 | 誰と何を考えるときに読み返したいかを一つ。 |
本の全てを別のノートへ写せば、もう一冊を持つことになる。探す対象も増える。私は、書き写した量より、次に開く箇所が分かるかどうかを見たい。
王貞治は、数多く打席へ立った後も、打ち損じた一球を思い出すと語っていた。打てなかった球を打つにはどうするかを考え、練習する。記憶に残っていたのは、打席数の合計だけではなかった。
荒川博のもとで王が素振りをしていたとき、興味半分に見に来た巨人の先輩たちが、最後は正座でその様子を見ていたという。私は、見学した人間の側にも、姿勢が変わるだけの時間があったことを見たい。本を一冊読んだだけで、昔の指導を採点し始める部長とは順番が違う。
自分の言葉で一つだけ書き、原文と混ぜない
読み終えて残った点を短く書き、曖昧なら本文を読み返して確かめる。正確に引く場合は引用部分を区別し、ページを添える。思い出せない文を著者の言葉として作り直さない。
架空の記入例:場所「ある整理の本、第2章」/要点「しまう方法より、使った後に戻す場所を先に考える」/使う場面「帰宅後の鍵の置き方を見直すとき」。これは実在書籍の引用ではなく、メモの形を示すための例である。
自分なりに解釈したのなら、それは自分の考えとして残ればよい。立派に見せようとして著者の名の下へ置くと、後から読んだ自分まで、それを著者の発言だと思ってしまう。
王が語っていたのは、打てなかった理由を考え、練習する姿勢だった。本を読んだから王と同じだけ準備したことにはならない。ところが、新しい言葉を一つ知ると、古い指導を全て説明できると思う管理職がいる。私が教えてきたことまで、その本の付箋一枚へ畳まれては困る。
メモは、使う機会に本と一緒に読み直す
次に似た課題を考えるとき、メモだけで結論を決めず、必要なら本の前後も読み直す。今の状況に合わない部分や、読み違いに気づいた点は追記する。
メモの保存先は一つに寄せ、書名や話題で探せる形にする。何十項目も一度に整える必要はない。未読の本が増えて困っている場合は、積読を整理する考え方とは分けて扱える。
一度書いた感想を、後で変えてはいけないと思うことはない。読んだ時には気づかなかった条件が、仕事をした後で見えることもある。初読の自分を守るために、本文を読まなくなるのでは順序が逆だ。
王は荒川博のもとへ通い、素振りを重ねた。知ったことを、もう知ったからという理由で済ませなかった。私は、昔の指導を何度も聞いたという人間に、その何度のうち一度くらいは、聞いた後の違いを説明してもらいたい。
覚える必要のない本まで、試験にしない
楽しむための本を、全て要約の課題にする必要はない。残しておきたい箇所だけ記録する方法もある。忘れることへの不安をあおったり、読書メモを健康上の対処の代わりにしたりしない。
小説を読んで面白かったなら、その時間は既にあった。登場人物の名前を後から全員答えられなければ損だった、という採点はしない。読むことより、読んだ証拠作りが重くなっている。
ただ、昔の巨人について語るなら、誰が誰へ教えたかは曖昧にしてほしくない。感動したという感想だけで王と荒川の順番が逆になっては困る。何を忘れてよいかを決めるにも、知らなくてよいということにはならない。
まとめ
読書メモには、戻れる場所、短い要点、使う場面を残す。引用と解釈を分け、必要なときに前後の文脈まで読み直す。全ての本を暗記や要約の課題にしない。
王は打ち損じた一球を覚え、荒川のもとでは、一度教わったというだけで素振りを終えなかった。見に来た先輩まで姿勢を変えた。私は、その場面を新しい読書術の用語一つで説明し直す必要を感じない。
仕事のために本を読む上司なら、要点を三行にした後で、昔の指導と同じだった箇所も残しておけばよい。新刊の言葉だけが新しく、仕事の中身は前から教わっていたのなら、その三行は本の感想より先に、教えた人間へ見せる順序である。
先輩の説明は長いが、この本なら短く分かると言う管理職もいる。短くなったのが話なのか、聞いた人間の理解なのか、私はまだ採点していない。分かったという報告だけで、前の教えを収納する気にはなれない。
読む本の順番は選べても、教わった順番まで新刊順には並び替わらない。私が次に開く場所を指定するなら、最新刊の帯より、古い教えを飛ばしたそのページである。











