MENU

仕事の属人化を解消するには?引き継ぎとマニュアルの考え方

引き継ぎ用のノートと二人分の椅子を配置した共有デスクのイラスト

あの人が休むと、仕事が止まる。保存場所を聞けば、その人のパソコンにある。手順を聞けば、前にも説明したと言われる。会社で属人化と呼ばれるものは、難しい技術の話とは限らない。

頼りになる人間がいることと、その人がいなければ何もできないことは違う。経験をなくすのではなく、経験が次の人間へ渡る形になっているか。その点から考えたい。

目次

仕事の属人化とは?専門性との違い

ここでいう属人化は、必要な手順・情報・判断が特定の担当者に集中し、不在時にほかの人が対応できない状態を指す。専門性が高いこと自体が問題なのではない。まず「担当者が不在なら何が止まるか」を確かめると、引き継ぐべき範囲を見つけやすい。

西武で辻発彦に守備を教えたときは、私もグラブを持ち、身振りを交えて示した。辻は納得しなければ、すぐには変えない選手だった。だが、納得すれば実行した。返事がよいことと、教えた中身が渡ることは別なのである。

私は、辻が後に監督となり、自分でグラブを持って守備を教えていると聞いてうれしかった。教わった選手が、今度は教える。私の横に立たなければ何も説明できないままなら、教えたことが残ったとは言えない。

会社には、部下が自分に聞きに来る回数を、自分の値打ちだと思う上司がいる。何度も同じ場所を聞かれるなら、置き方か教え方を考えるべきなのに、自分が頼られていると喜ぶ。私なら、その上司に、何回聞かれれば教え終わったことになるのかを先に尋ねる。

巨人の伝統も、昔の人間しか知らないから立派なのではない。今の選手へ何を渡したかである。昔はよかったと話している間に、昔できたことを誰も教えていないのなら、伝統を守っているのではなく、自分が説明する順番を守っているだけだ。

ただし、説明する順番まで若い者へ譲る必要はない。覚えた者が次を教えるのはよいが、その教え方が正しいかを見届けるのは、先に教えた人間である。仕事が渡ったことと、判定する立場が渡ったことを混ぜてはいけない。

広告

属人化の解消は、何から始めればよいか

止まったときの影響と、代わりに対応できる人の有無で業務を絞り、一つずつ引き継ぐ。たとえば月末の集計なら、元データの場所、締切、処理手順、確認事項、例外時の相談先をまとめ、別の担当者が実際に試す。管理職が教える時間と教わる時間を業務として確保することも必要になる。

まず全員の仕事を全部書かせる、という上司もいる。それでは、最も仕事を抱えている者に、最も多くの書類を作らせることになる。普段の仕事は減らさず、引き継ぎだけ増やして、組織の問題を片づけた顔をしてはいけない。

私が巨人にいたころ、国鉄から来た金田正一を、最初から名前だけで迎え入れたわけではなかった。よく練習し、走り、野球に向き合う姿を見て、助けようという気持ちになった。少なくとも私は、そう覚えている。

会社が経験者を採って、これで引き継ぎは済んだと言うのはおかしい。経験者も、その会社の保存場所や締切まで知っているわけではない。よその会社で仕事ができたことと、こちらの仕事を説明しなくてよいことは違うのである。

巨人なら、なおさらである。よい選手が来れば、どのように取り組むかを見て、こちらも助ける。立派な実績を持ってきたから、教える側が何もしなくてよいわけではない。外から来た選手の名前で、自分たちの指導まで済んだことにする幹部には、誰を連れてきても足りない。

仕事が止まる理由が、作業ではなく上司の判断待ちなら、手順を増やす前に確認先を決める話になる。伝える時点や判断の頼み方は、報連相のタイミングと伝え方でも整理している。承認する人間が決まっていない仕事を、担当者の説明不足で済ませてはいけない。

マニュアルを作っても解消しないのはなぜか

手順書があるだけでは、別の人が実行できるとは限らない。実際に試して迷った箇所を直し、通常と異なる場合の判断基準・相談先、最新版の保管場所、更新担当を合わせておく。共有は権限のある範囲で行い、個人のパスワードや機密情報を無差別に配ることとは区別する。

辻は、私の説明へすぐに返事をするだけの選手ではなかった。納得するまで変えず、納得すれば動いた。説明を聞いたという記録だけ残しても、その次の動きが違えば、まだ教えることは残っている。

ところが会社では、資料を配った日をもって教育が終わる。部長が読んだかも確かめず、全員に共有済みと言う。部下の報告には、自分が納得するまで説明を求める人間が、自分の説明では配信した時刻を証拠にするのである。

巨人の若い選手が、伝統についての資料を読んだから教わり終えたと言えば、幹部は顔をしかめるだろう。それなら幹部のほうも、読ませただけで伝統を教えたことにしてはいけない。何を見て、何を覚え、次の選手へどう示すか。教えた人間がそこまで見届ける話である。

若い者が、もっとわかりやすい説明へ直したと言う場合もある。それは結構だ。しかし、わかりやすくなったことと、教わった順序が変わったことは別である。便利な説明ができたからといって、元を教えた人間より先に、その仕事をわかったことにしてはいけない。

広告

まとめ

属人化の解消は、詳しい人を不要にすることではなく、不在でも必要な仕事を続けられる状態を作ること。止まる業務を選び、手順と判断基準を残し、別の担当者による実行で確かめる。引き継ぎの時間と、相談・更新の担当まで決めておくことが大切になる。

辻がグラブを持ち、自分で選手を教える。その話を聞いて、私が教えたことは次へ渡っていると思った。私が毎日そこにいなければ何もできないのでは、選手を育てたことにならない。

巨人の幹部も、選手ができるようになるまでは自分の責任として引き受ければよい。ただ、選手が次を教えられるようになったから、もう昔の指導者に確かめる必要はないというのは、話が早い。

仕事のやり方は、誰にでも渡せるようにする。しかし、正しく渡ったと言ってよいのは、最初に教えた人間である。そこまで共有してしまえば、誰が教えたかまで、わからなくなる。

この記事を書いた人

目次