上司から「報連相ができていない」と言われた。早く話せば、まだ決まっていないのかと聞かれ、決まってから話せば、なぜ先に相談しなかったのかと言われる。
報告、連絡、相談を一緒にして叱れば、上司は三つ教えた気になれる。しかし、受け取った側には、次に何を変えるのかが残らない。まず、その注意の中身を分けて考えたい。
「報連相ができない」と言われたら、何を確認するか
報告が遅かったのか、必要な相手に届いていなかったのか、判断を求める内容が足りなかったのかを、具体的な一件で確認すると改善点を絞りやすい。「昨日の件は、どの時点で何を伝える必要がありましたか」と確かめる方法がある。
私が引退した一九六六年、長嶋茂雄が蜂蜜を持って訪ねてきた。私の好物だと思っていたらしい。だが、私は蜂蜜を好きだと言った覚えがない。嫌いでもないので、ありがたく受け取った。
気持ちは伝わっている。好物についての情報は違っている。この二つを一緒にしないことである。
会社では、感じよく話す部下の報告は十分だと思い、口数の少ない部下には何も聞いていないと言う上司がいる。蜂蜜の包みがきれいだから、中身まで自分の好物だったことにするようなものだ。
私は長嶋の気持ちを買う。しかし、巨人のベンチへ入る報告を、愛想のよさで受け取るわけにはいかない。何が起きたのかと、報告した選手をかわいがっているかどうかは別である。上に立つ者が、そこを混ぜてはいけない。
もっとも、長嶋が持ってきたものまで、その場で訂正する必要はない。まず受け取る。それから、長嶋ではない者が同じことをした場合の指導を考える。誰に対しても同じ説明で済むと思うのは、まだ巨人というものがわかっていない。
報告・相談のタイミングは、完成する前に決めておく
定期的な進捗確認の時刻と、予定の遅れ・前提の変更・自分では決められない事項が出たときの連絡先を、着手時に合わせておく。問題はすべて解決してからではなく、判明した事実と未確認の点を分けて早めに伝え、緊急時は職場の連絡ルールに従う。
一九八八年、日米ベースボールサミットを開く際、私は長嶋に協力を頼んだ。催しを成功させるために、その名前の力を借りたい。頼む目的を隠さず伝えると、長嶋は快く引き受けてくれた。
長嶋ならわかるだろうと、用件を伏せて来てもらったのではない。何を頼みたいかが先にあったのである。ところが会社の上司は、部下が相談へ来る目的を知りたがる一方、自分が呼びつけるときは、ちょっと来いで済ませる。用件を省く権利まで役職に付いていると思っている。
完成してからでは遅い仕事なら、完成前のどこで見るかを上司が決めればよい。毎朝、夕方、方針が変わるとき。それぞれ仕事によって違う。気分が変わった時刻を、報告期限だったことにしてはいけない。
私は巨人の幹部なら、若い選手に報告を求める前に、自分が何を判断する役なのかを説明させたい。選手の状態を見るのか、練習の中身を見るのか、ただ巨人らしい言葉が聞きたいのか。最後のものなら、報告ではなく挨拶の時間を別に設けるべきである。
仕事の目的や判断できる範囲自体が決まっていない場合は、上司の丸投げと「任せる」の違いも、先に整理する必要がある。報告を増やすだけで、決まっていない方針まで決まるわけではない。
何をどう伝えればよいか迷うときの報告例
「現在の状況→確認できた事実→影響の見込み→判断してほしいこと」の順に短いメモを作ると、話す内容を整理しやすい。たとえば「納品が遅れる可能性があります。先方から出荷未了の連絡がありました。到着日は未確認です。今日中に代替品を手配するか、ご判断をお願いできますか」と、事実と見通しを分ける。
ここで、先方は大丈夫そうでした、などと付け加える人間がいる。大丈夫だと確認したのか、声が明るかったのか。その違いは、聞く側が確かめなければならない。蜂蜜を好きそうだという話が、いつの間にか本人の好物になるのも同じことである。
私は長嶋の人柄を認めていたが、仮に自分が監督になったとして、長嶋をヘッドコーチに置くかという話なら、置かないと考えていた。直感で動ける才能と、監督の考えを整理して人へ伝える役目は、同じではない。
巨人だから、立派な名前を並べれば立派な組織になると思ってはいけない。名前を借りる催しと、毎日判断をつなぐベンチでは、頼む仕事が違うのである。会社でも、取引先に好かれるからという理由で、すべての連絡をその人に集めることがある。そこで止まった情報まで、本人の人柄で通ったことにはならない。
聞く側が忙しく、途中で話を切るなら、まず何の判断が必要かを伝え、詳しい経緯はメモに残す。送っただけで見てもらえたとは限らないので、急ぎの案件は受け取られたかも確かめる。ただし、いつでも誰でも捕まえろというのではない。受け手が不在のときに誰へ回すかも、職場で決める話である。
上司が毎回違う注文を出すなら、その都度合意した伝え方を残しておけばよい。前回の注文を見せられて腹を立てる上司は、自分の指示が伝わっていることを喜ぶ段階に、まだ来ていない。
まとめ
報連相ができないと言われたら、具体的な場面から不足していた内容を確かめ、伝える時点・相手・手段を合わせる。事実と推測、共有と判断の依頼を分けることが基本になる。改善を担当者一人の気配りだけに任せず、受け取る側のルールも必要だ。
長嶋は蜂蜜を持ってきた。私は気持ちを受け取った。だからといって、巨人の報告まで、よい気持ちだったので問題なしとはできない。
若い者の報告は短くてよい。何が起きて、何を決めてほしいのかが届けばよいのである。しかし、幹部が巨人の名前を使って物を言うなら、短ければよいとは限らない。その言葉をどの立場で使い、誰へ何を頼んだのか。そこまで聞く必要がある。
長嶋さんなら細かく説明しなくても通じた、と言う幹部もいるだろう。それは長嶋の話であって、その幹部の省略が認められた話ではない。長嶋を理由に説明を省くなら、まず、私にその理由を十分説明することである。
