会議の資料は揃ったのに、誰がどこへ座るかで入口が混み合っている。上座を空けたつもりが、そこからは画面が見えない。奥へ通せば丁寧だというだけでは、部屋の使い方がまだ半分である。
私は、席順を覚えること自体には反対しない。相手を迎える形には意味がある。ただ、案内した者が部屋を見ず、座った客の方が首を曲げて資料を追っている。それを礼儀ができたとは数えたくない。
基本は入口から遠い側。議長席があれば配置も見る
一般的な会議室では入口から遠い側が上座、近い側が下座の目安になる。ただし議長席や指定席、来客の有無によって席次は変わる。入口だけで決めず、主催者の案内と会議の形式を合わせて確認する。
同じ長机でも、向かい合って商談する場合と、一人の議長へ全員が向く場合では配置が違う。扉が二つあれば通常の出入りに使う方を確認し、避難経路や移動のしやすさを妨げない。社内の決まりがある場合も事前に確認できる。
入口から遠い席を覚えた管理職が、別の部屋でも同じ角へ人を押し込む。敬っている相手より、暗記した図の方を優先しているのである。椅子を引く前に、今日どちらを向いて話すのかがある。
松井秀喜は、高橋由伸が打席の投手寄りに立つことを見て、距離を損しているのに速球にも変化球にも対応していると感じていたという。自分は捕手寄りだった。2025年の対談で、高橋はフェンスへ近づきたいことと、前に立つ方が視界が広がる感覚を説明した。
同じ左打者が巨人で並んでも、立つ場所を一つへそろえて済ませなかった。私は、この話を知ったばかりの部長が、次の会議では全員好きな席でよいと飛ばすのも買わない。二人の打撃を知らず、席の自由だけ受け取っても、その判断を引き継いだことにはならない。
対面・ロの字・円卓は、同じ番号表を当てはめない
対面式は来客側と自社側、ロの字・コの字は議長や進行の位置、円卓は入口と会議の目的を手掛かりにする。机の形だけで全席の順位を一律に確定せず、指定が分からなければ主催者へ確認する。
| 配置 | 先に確かめること |
|---|---|
| 対面式 | 来客を迎える側と、責任者同士が話す位置。 |
| ロの字・コの字 | 議長席、説明する方向、資料を操作する場所。 |
| 円卓 | 入口との位置関係、指定席の有無、対等な議論を目的とするか。 |
高橋は打席の前に立つ理由として、フェンスとの距離を近くしたかったことに加え、後ろではラインが見え、前ではグラウンドが広く見えることを挙げている。松井も、その説明を聞いて理解を示していた。立つ場所を選ぶ者には、見えているものがあった。
これは高橋がそう感じたという話で、前へ立てば誰でも同じ打者になるという意味ではない。私は、巨人で仕事をしてきた二人の違いを、揃っていないから悪いとは思わない。役員が一番奥へ座った写真だけ整え、会議で何が決まったかは言えない会社とは、位置を選んだ後の仕事が違う。
スクリーンがあるときは、見やすさと声の届き方を優先する
資料を見る会議では、画面が見える位置や、説明を聞ける配置を優先して調整する。入口から遠くてもスクリーンに背を向ける席が常に上座とは限らない。進行・記録・機器操作も、無理のない位置に分ける。
例えば奥の席から画面が見えないなら、客に身体をひねり続けてもらうより、席や画面の向きを調整する。オンライン併用なら、遠隔の参加者へ顔と声が届くかも確かめる。カメラの表示順に役職の上下を作る話とは別である。
便利な画面を入れたことはよい。だが、画面の方へ人間を全部合わせようとするのは違う。会議室を新しくした上司が、前より話しにくい配置を立派だと説明している。設備の写真を誰に見せるつもりなのか。
松井と高橋の打席の違いには、本人が球をどう捉えるかという中身があった。私は、椅子を自由に選べるという制度の名前より、そこから誰の仕事が見えるのかを聞きたい。古参が顔を見て話したいと言った席を、カメラの都合だけで真っ先に端へ寄せる係には、まだ部屋の見方を任せられない。
案内された席や相手の希望があれば、その場で合わせる
訪問先で席を勧められたら、基本の席次と違っても案内に従ってよい。見え方や身体の事情で移動の希望があれば、順位だけを理由に断らず調整する。迷ったときは短く確認し、入口で譲り合いを長引かせない。
確認する言い方は「こちらに座ってもよろしいでしょうか」。案内側なら「画面はこちらから見やすいので、こちらのお席はいかがでしょうか」と目的を添えられる。名札や資料を動かす場合は、席と内容が食い違わないようにする。
若い担当者が迷うなら、迎える側が先に示せばよい。分からないまま立たせておいて、座った場所を後から減点するのは、案内役が自分の仕事を試験官へ変えただけである。
私は、客の希望を聞くことには賛成する。ただ、長く同じ場所で仕事をしてきた者の席まで、組織図を印刷し直すたびに替える必要はないと思う。役職欄が一段下がっただけで、見てきた仕事まで一段小さくなるわけではない。席次の表には、その欄が足りていない。
まとめ
上座・下座は入口との位置関係を基本に、議長席・スクリーン・来客の希望へ合わせる。形だけで席を固定せず、主催者へ確認し、全員が見て聞いて参加できる配置にする。
松井と高橋は、同じ左打者でも打席の位置が違い、違う理由も持っていた。私は、線をそろえたかだけを見る指導を高く買わない。ただし、それで席の重みが全部消えたとも考えない。
会議室の席は、入口や設備、仕事の役割を見て決めればよい。その上で、昔からの指導者が来るなら、今日だけの担当表で末席へ送る必要はない。用件の進行を担当する者と、進行そのものを見てきた者には別の席がある。
新任の部長が自由席を宣言したなら、自分がどこへ座るかを最後に決めればよい。先輩の説明が聞こえる場所が残っていなければ、部長の配置がまだ終わっていないのである。
机が同じ大きさでも、座る者の年月まで同じにはならない。私は、全員の椅子が埋まったという報告だけで、その部長の席順へ合格を出すつもりはない。











