会議中はうなずいていたのに、議事録を送ると、そんな話ではなかったと言われる。長く書けば読み切れず、短くすれば何も決まっていないように見える。記録係だけが、会議の続きを引き受けている。
私は、発言を全部並べることを、正確な記録とは考えない。ただし、短くするために、誰が決め、誰が動くのかまで消してしまえば、残ったのは会議があったという証拠だけである。
議事録には何を書く?先に用意しておく項目
一般の社内打ち合わせなら、会議名・日時・参加者・議題に続けて、決定事項、作業と担当・期限、未決事項、必要な経緯の欄を用意する。会社の書式があればそれを優先する。たとえば「決定:案内文をA案にする/作業:担当者名、修正内容、提出期限/保留:配信日、確認する相手と回答予定」のように分ける。法定の議事録は別の要件を確認する必要がある。
堀内恒夫の回想では、巨人の牧野茂は、バントの見込みに応じた守備の形を一から五に分け、スペイン語の数詞で呼んだ。名前を短くする前に、違う動きを区別していたのである。
今の会議では、全部を対応という欄に入れてしまう。決まったことも、頼みたいことも、誰かに聞かなければ分からないことも、同じ対応になる。欄が一つなので見やすいと言うが、次に誰が立つのかは見えない。守備の形を全部、適宜守ると書いて済ませるようなものだ。
発言をどこまで残す?提案と決定事項の分け方
発言の全文ではなく、確認できた結論と、結論を理解するために必要な理由・条件を残す。案が出ただけなら提案、合意や判断が確認できたものは決定事項とし、曖昧なら会議中か共有前に確認する。担当・期限が未定の場合は推測で埋めず、未定と、その確認を進める人を記す。
検討したい、という発言が、進めることになった、へ変わっている議事録がある。文章を整えたつもりなのだろうが、会議で出なかった決断を、記録係が一人で引き受けている。決める者が黙っていて、書く者だけが断定する。これでは席順と責任の順番が逆である。
堀内が挙げた連係には、バントに備えて一塁手が前へ出て、空いた一塁へ二塁手が入り、投手や捕手から牽制する動きがあった。一塁を空ける、というところだけ残せば、同じ作戦の説明にはならない。
部長が懸念を話し、課長が案を出し、最後に部長が判断した。それを全員で検討とまとめるのも感心しない。発言を平らにした結果、決めた者まで同じ高さへ戻っている。短くするなら、まず同じ説明の繰り返しを減らせばよい。判断した者の名前から切り始める必要はない。
メモが追いつかないとき、会議中に確認すること
会議中は結論、担当、期限、数字や条件を優先して短く控え、不明点に印を付ける。議題の区切りで、何が決まったか、次の作業は誰がいつまでに行うかを確認する。聞き取れないまま決定扱いにしない。録音や文字起こしは、社内の情報管理ルールと必要な了承を確認して使い、内容は人が照合する。
略語を使うのは構わない。しかし、略す前に何を表しているかがそろっていなければ、書いた本人だけが分かる暗号になる。牧野の分類も、数詞を覚えたことと、野手が動けることを同じにはできない。今の上司が、トレスと呼べば仕事が進むと思うのなら、まず自分がどこへ入るのかを聞きたい。
若い者が記録している横で、上司が、そこはうまくまとめておいてと言う。うまく判断する仕事を、うまく書く仕事へ渡しているのである。私は、記録係が聞き返したことより、判断する者が答えを持ち帰った回数を先に数える。
共有はいつする?修正が出たときの残し方
会議後、記憶が鮮明なうちに整理し、確認を受ける相手・期限・共有範囲を決めて早めに送る。確認前の版はその状態を明記する。誤記の訂正と、会議後に変わった決定は区別し、変更内容と最新版の置き場所を関係者へ知らせる。機密情報は必要な範囲だけで共有する。
昨日の記録を黙って直し、今日の決定まで最初から決まっていたことにする。見た目は一つの完成版になるが、昨日それを読んで動いた者の説明がつかなくなる。後から整えた紙だけを見て、なぜ違う仕事をしたのかと叱る上司は、自分が変えたところを先に読むべきだ。
もっとも、私は、昔の巨人の教えまで、最新版という一枚へ簡単に移してよいとは思わない。今の担当者が分かりやすく直しましたと言っても、誰が何を教えたかが消えていれば、それは整理ではなく、教わった側だけの文章である。牧野の名前を外し、便利な連係だけ引き継ぐのでは、引き継いだ者の顔ばかり大きくなる。
まとめ
議事録は、決定事項、担当・期限、未決事項を分け、必要な理由と条件を残す。提案を決定へ書き換えず、曖昧な点は確認する。共有後の訂正や変更も伝わる形にすることで、読む人が次の仕事を確かめやすくなる。
短い記録に反対しているのではない。若い者が次の仕事へ移るためには、長い発言を全部抱えて帰る必要はない。ただ、教えた者の名前まで、作業に関係ない情報として省く者には、まだ任せたくない。
牧野の連係を説明するのに、動く順番だけは分かりますと言われても、私は十分とは認めない。誰から教わったかを、動く順番より先に書く。その一行で紙が増えるなら、用紙の方を増やせばよい。










