分からなければ聞いて、と言われた。いざ聞くと、どこが分からないのかと聞かれる。その、どこかを見つけるところで止まっている。質問の仕方を考えているうちに、作業より質問の準備が長くなる。
私は、質問することを、仕事のできない証拠には数えない。何を確かめたかが見えれば、教える側にも次の用事ができる。ただ、質問はないかと聞いた上司が、ないという返事だけで安心するのも早い。
仕事で質問するとき、何を整理して伝えるか
「何の作業か」「どこまで分かったか」「どこで止まったか」「何を確認したいか」を短く伝える。見た資料や試したことがあれば添えられるが、完璧な仮説は質問の条件ではない。画面や書類の該当箇所を示せば、言葉だけで説明しにくい点も共有しやすい。
二〇一六年、松井秀喜が巨人の宮崎キャンプで臨時コーチを務めた。個別の助言だけでなく、選手が円陣を組み、その中でバットを持って打撃の要点を示す場もあった。軸足や構えなど、言葉と動きを合わせた指導である。
私は、あのように見る場所がある説明はよいと思う。打撃をよくしよう、とだけ言うなら、誰も反対しない。反対も質問も出ないから、よく伝わった気になれる。しかし、その言葉だけでは、選手がどこから動けばよいのかが見えない。
会社の上司にも、質を高めろと教え、質のどこかを聞かれると、自分で考えろと言う者がいる。自分が省略した説明を、相手の質問力の不足へ移している。質問を上手にする前に、教えた中身を一つ指せるかである。
何が分からないか分からないときは、どう聞くか
理解できたところから、自分が次にしようとしている作業を説明し、ずれている箇所を確かめる。「完成形」「使う資料」「最初の一手」のどれが不明かを一緒に確認する方法もある。見本を一件見せてもらい、どこで何を判断しているのかを教わると、質問する場所を見つけやすい。
たとえば「集計後に資料へ転記するところまでは分かりました。数字が合わない場合、元データを直すのか、差分を記録するのかが分かりません」と聞ける。そこまで分けられなければ、見本を一緒にたどるところからでよい。
松井の指導を受けた村田修一は、自分が取り組んでいた方向が間違っていないと再確認できたと話していた。新しい答えを一つ増やすだけが、教わる意味ではない。いまの取り組みを、どこまで続けてよいかが見えることにも意味がある。
何を聞かれても新しい課題を渡すコーチでは、選手はいつまでたっても前の答えを試せない。巨人の名で教える者が、毎回違う言葉を用意したから仕事をしたと思っていては困る。前と同じでよい、と言うにも、前を見ている必要がある。
質問するタイミングは、どこで決めるか
仕事への影響と期限から、今すぐ必要な確認と後でも間に合う確認を分ける。安全、情報漏えい、取り消せない処理に関わる不明点は、試す前に確認する。通常の質問も長く抱えず、相談する目安や不在時の連絡先を合わせておく。一律に何分調べてから、という決まりにする必要はない。
急ぎでなければ、たとえば「請求一覧の入力方法で確認があります。今日の三時までに教えていただける時間はありますか」と用件と必要な時点を添えられる。状況の変化や遅れを伝える話は、報連相のタイミングと伝え方で別に扱っている。
松井は、助言を求めに来た選手とじっくり話し、教える楽しみより、選手が試合で結果を出すことが目的だと語っていた。話を聞いた者が満足したかだけで、指導を採点していなかったのである。
ところが会社には、質問に五分答えたから五分教えた、と数える上司がいる。その五分で相手がどこへ進めるようになったかは数えていない。忙しかったという記録を残すのと、仕事をつなぐのは違う。
同じことを聞き直したいときは、どう伝えるか
前に教わった内容と、今回確認したい条件を分けて伝える。「前回はAと理解しましたが、今回はBの場合も同じですか」と聞ける。記録が不十分だった場合も、不確かなまま進めず、確認後にメモを補う。威圧や人格への攻撃で質問できない状態なら、聞き方だけの問題にせず、別の責任者や相談窓口につなぐ。
聞き直した場所が後から分かるよう、仕事のメモの残し方も関わってくる。前と同じ言葉を聞いたから、前と同じ条件だとは限らない。そこを確かめた者まで、話を聞いていなかったことにしてはいけない。
松井は、自分の話がすべて正しいとは限らず、選手がどう受け取るかという姿勢も示していた。私は、その慎重さを認める。自分で試してきたものがある者が、相手へ渡すときに余地を残している。
ただし、教わった言葉をそのまま並べているだけのコーチまで、選手が自分で選べばよいと言い始めるなら話は違う。松井が残した余地と、説明できない者が空けた穴は、同じ広さでも同じものではない。
まとめ
仕事の質問は、作業・理解できた範囲・止まった箇所・確かめたい点を短く示す。整理できなければ見本を一緒にたどり、安全に関わる不明点は着手前に確認する。聞き直しは条件の違いを添え、質問を受ける側も確認しやすい場を用意する。
松井のように動きを見せ、相手の取り組みを見て、必要なところで答える。その仕事を抜いて、質問の上手な選手だけ欲しがるのは、教える側に都合がよい。
しかし、自分のよいと思う方法を選べばよい、と言えるのは、その自分の中に松井ほどの打席が入っている者である。巨人の看板で教えるなら、誰に何を教わったかを先に答えてもらいたい。独自の工夫を聞くのは、その答えが済んでからで間に合う。










