一週間の仕事を振り返った欄に、来週も頑張ると書いてある。先週の欄にも同じことが書いてある。頑張る気持ちは毎週新しくなるのに、仕事の進め方は先月のままである。
反省が足りないから、もっと詳しく書かせるという上司もいる。しかし、長い文章にしたところで、同じ気持ちを丁寧に述べるだけなら、中身は増えていない。振り返りで確かめたいのは、何をした結果、次に何を変えるのかである。
仕事の振り返りは、何から始めればよいか
一日や一週間の中から一つの仕事を選び、予定していたことと実際に起きたことを分けて書く。資料、記録、相手からの返答などで事実を確かめ、「自分は向いていない」といった人物全体への評価から始めない。振り返りの目的は、自分を責めることではなく、経験を次の判断へつなげることにある。
忙しかった、うまくいかなかった、という感想だけでは、どの場面へ戻ればよいのか分からない。説明を始める前に資料を渡したのか、途中で渡したのか。その程度の違いでも、次に確かめる場所は変わる。
巨人の吉田孝司は、森昌彦という大きな壁と捕手の位置を争った。川上哲治監督から交代の準備を言われても、森がもう一打席を求め、出番がなくなったこともあったと回想している。試合に出られなかったという結果にも、そこへ至る順序があった。
私は、結果だけ見て、意欲が足りないと片付ける指導者には賛成しない。誰が何を言い、どこで予定が変わったのか。そこを見ずに吉田の準備不足と決めてしまえば、森がもう一打席を取った仕事まで、説明から消えてしまう。
振り返りには何を書く?三つの項目と記入例
「やったこと」「わかったこと」「次にやること」に分ける方法がある。これは日本能率協会コンサルティングが開発したYWT®の考え方で、自分の経験と気づきを起点にする。例なら、やったこと=会議前日に資料を共有した、わかったこと=必要な確認事項も添えると質問が具体的になった、次にやること=次の会議でも確認事項を添えて反応を見る、と書ける。
この例は、書き分け方を示すための架空の場面である。毎回、資料を早く渡せばよいという決まりではない。何が分かったかを飛ばして、次からもっと早くする、とだけ書けば、理由の分からない締切が一つ増える。
吉田は、牧野茂から、森と同じリードではなく内角を攻めるよう助言され、それが当たったと話している。森を見ていたことから、自分が次に試すことへ進んだ。捕手として頑張るという言葉だけでは、投手に出すサインは一つも変わらない。
上司も、部下の欄に具体性がないと書く前に、自分の助言を読み返せばよい。意識を高く持つ、広い視野で考える。立派な言葉をいくつ並べても、次の一球は決まらない。巨人の捕手に内角という場所を示した話のほうが、よほど何を渡したか分かる。
失敗がなかった日も、振り返る意味はあるか
うまくいった仕事も対象になる。自分がした工夫、周囲の助け、偶然の条件を分け、次も続けたい点を残す。一度成功しただけで、やり方が常に正しいと断定しない。失敗の報告や謝罪だけを求める場にせず、小さな発見も書ける形にする。
問題ありませんでした、で終わると、何が問題を防いだかまで消える。反対に、自分の工夫だけで全部うまくいったことにすれば、次も同じ条件がそろうと思い込む。成功した日の説明こそ、自分に都合のよい省略が入りやすい。
吉田は一九七四年、森より多く試合に出た。それでも回想の中では、森を自分にとってのライバルとして語っている。出場数が逆転したら、それまでの捕手争いが全部終わったという整理ではなかった。
私は、若い者が一度よい数字を出して、もう先輩の仕事は分かったという顔をするのは早いと思う。今週の成功は今週の欄に書けばよい。先輩がどれだけ続けてきたかまで、自分の一週間で採点し直す必要はない。比較する期間を揃えるというなら、先に長く働いた側の期間へ合わせる話になる。
振り返りを、次の行動につなげるには
次に試すことを一つ選び、いつ・どの仕事で行うかと、結果を確かめる時点を決める。「注意する」ではなく、実際に変える手順や確認方法を書く。他の人の判断や協力が必要なら、自分だけの約束にせず相談する。試した結果を次回読み返し、続けるか変えるかを考える。
書く前の記録が曖昧なら、仕事のメモに残す項目を確かめる段階である。途中で上司の判断が必要になった場合は、報連相のタイミングと伝え方にも関わる。一人で振り返ったからといって、他の人が決める部分まで引き受けることにはならない。
吉田が森と違うリードを試せた話には、牧野が出てくる。若い捕手が一人で考えた、とだけまとめてしまうと、指導した側の仕事が抜ける。本人の工夫を残すことと、教えた者の名前を外すことは別である。
ただし、会社の振り返り欄へ上司の名前を並べればよいという話でもない。何を教えたか分からない名前を増やしても、判断の材料にはならない。昔の巨人なら、牧野が何を示したかまで説明できる。上司がそこへ並びたいなら、名前を書く場所より先に、残る助言を用意する必要がある。
まとめ
仕事の振り返りは、一つの経験について、事実、そこからの気づき、次に試すことを分けて書く。失敗だけでなく、続けたい工夫も残す。次の行動と確認する時点まで決め、反省の長さや気持ちの強さを成果に置き換えない。
私は、同じ仕事を続けるにしても、何が分かったうえで続けるのかを聞きたい。しかし、若い者が新しく分かったことを、そのまま昔の巨人の評価へ当てはめてよいとは思わない。吉田が出番を得るまでの競争には、今週の仕事の欄には入らない厚みがある。
今の職場で出番が減れば、理由を確認する。昔の巨人で出番が回ってこなかった話なら、まず森の厳しさを理解する。その順番で読むことができてから、自分ならどうするかという欄へ進めばよい。










