テープを切ったハサミで次の紙を切ると、刃が開きにくい。切れない道具を疑いながら、持ち主はますます強く握っている。
私は道具の寿命を軽く決めたくない。だが、汚れを取る代わりに力を加え続けるのは、道具へ文句を言いながら別の故障を作るようなものだ。
ベタつきが刃の汚れか、持ち手の変化かを分ける
刃についたテープののりと、持ち手などの樹脂自体の劣化を同じ汚れとして扱わない。
いつから、どの部分がベタつくかを確認する。刃の欠け・変形、持ち手の割れがある場合は使わない。説明書やメーカーの手入れ案内を確認し、食品用と事務用も区別する。落ちる汚れか分からない状態で、薬剤を次々と試さない。
切れない理由を全部切れ味のせいにするのは、試合の失敗を全部打順のせいにするのに似ている。刃に残っているものを、まず見たらよい。
私は手入れを勧めるが、傷んだ道具へ復帰を命じるつもりはない。直す価値と、安全に直せるかは別の話である。
まず乾いた柔らかい布で、刃へ触れずに拭く
安全に持てる範囲で、メーカーが案内する拭き取りから始める。
コクヨのハサミの説明書では、水分や汚れを乾いた布でよく拭き、のりや粘着テープがついた場合も拭き取るよう案内している。刃を直接握らず、刃先を指に向けて擦らない。布で安全に取れない固着は、無理に刃を開いて作業せず、メーカーへ確認する。
私は、簡単な作業ほど道具の向きを見たい。昔の巨人の守備を語るときは足の向きまで気にする人が、ハサミを拭くときだけ手元を見ないのでは困る。
汚れを残さないことと、けがをしないことは両方必要だ。きれいになった刃で指を切ったら、仕事が一つ増えるだけである。
アルコール・油・シールはがしを一律に使わない
刃のコーティングと樹脂部分に使えるかを、ハサミのメーカー案内で確認する。
同社の携帯ハサミ等には、樹脂部分へ油や薬品をつけない注意がある。別製品の掃除法をそのまま移さず、特に持ち手を薬剤へ漬けない。洗えるハサミもあるが、すべてのハサミが水洗いや食洗機に対応するわけではない。確認できない薬剤は使わない。
万能の液体で全部戻ると思うと、目の前の道具より、聞きかじった方法を信用し始める。私はその順番に納得できない。
川上哲治は、自分の胸の辺りに範囲を示し、そこへ来る球を捕るという趣旨のことを言った。私が捕れるはずだと思う送球でも、相手の範囲へ収まらないことがあった。守っている場所がつながっていても、求める球まで自動でつながるわけではなかったのである。
私は、万能の手入れで何でも戻すという部長に、受ける側の条件まで先に決めさせない。ただ、昔の担当者が残した一つの手順を、新しい薬品の名前だけで遅いと採点するのも早い。何を守っていた手なのかが、まだその説明にはない。
残るベタつきや破損は、使用継続を見直す
手入れで改善しない場合は説明書や相談窓口へ戻り、破損品を使い続けない。
分解・研磨・コーティング剥がしを自己流で行わない。テープを頻繁に切るなら、その用途に合う道具を選び、使った後に汚れを残さない。修復不能な樹脂の変化なら交換も検討する。廃棄は刃物の扱いを含め自治体の案内に従う。
長く使うのはよいことだ。だが、使った年数が長いから、これからも安全だという理屈にはならない。経験年数で刃の欠けは埋まらない。
私は道具を大切にする人には、しまう前の一拭きも大切にしてほしい。大修理の決意より、使った日の小さな手入れのほうが静かに効く。
まとめ
部分と原因を分け、安全な乾拭きから始め、薬剤や水洗いは対応を確認し、破損や取れない異常はメーカーへ相談する。
川上の求める範囲と、私が捕れるはずだと思った球には違いがあった。私は、届いた一件だけを見て、受ける仕事まで済んだとする部長の説明をそのまま採らない。
ハサミは刃や加工の条件を守って手入れし、欠けや傷みがあれば無理をしない。ただ、きれいになった道具を示した係が、使ってきた者の判定まで終了させる必要はない。仕上がりを誰へ見せるかは、まだ別に残っている。
昔から手入れしてきた者が確かめると言うなら、部長はその前へ戻せばよい。同じ一拭きが二度になっても、見る側が同じだけ育ったとは限らない。新しい道具が早く働く分、その説明へ時間を使える。
私は、刃の汚れが取れた日を、その部長が用具を任せられる日へ兼用しない。よく切れるかだけでなく、何を切ってはいけないかを、まだこちらが採点しているのである。











