約束より三十分早く着き、受付で相手を呼び出す。時間に厳しいつもりだが、相手の残り三十分にはずいぶん大らかである。
私は早く動くことには賛成だ。だが、こちらが早くなった分まで、相手に急いでもらう道理はない。到着と呼び出しは、分けて考えたい。
通常の訪問は、受付を約束の5分前ごろの目安にする
指定がなければ受付は5分前ごろを目安にし、入館方法や訪問先からの案内を優先する。
法人訪問の一般的な目安であり、すべての施設の決まりではない。本人確認や大きな構内の移動がある場所は、指定された余裕を見込む。建物の近くへ着く時間と、担当者を呼び出す受付時刻を別に考えれば、道迷いの余裕も取りやすい。
五分という数字だけ暗記して、入口を間違えて十五分歩く人がいる。時間を守るには時計も要るが、建物の名前も要る。
私は、早く着いたことを相手への功績に数えない。こちらが慌てず用意できたなら、その利益はもう受け取っている。
出発前に、入口と連絡先を確かめる
住所だけでなく、棟・階・受付、担当者、約束の日時と必要書類を確認する。
交通や駐車場、入館証、身分証の指定などを案内で確認する。訪問先が何社も入るビルでは、共通受付と各社受付を区別する。地図の到着点が会社の受付とは限らない。移動に余裕を見込んでも、早い呼び出しを求める必要はない。
松井秀喜は、長嶋茂雄との素振りで、一分休むと言われたのに、十秒もたたないうちに再開したことを語った。待っていた側には短く、教える側には次の一振りがもう見えていたのだろう。どの時計を持っていたかまで、同じ数字の一分には収まらなかった。
私は、約束の時刻を守る仕事と、昔の指導者が何を見ていたかを測る仕事を一緒にしない。ただ、部長が自分の遅れを長嶋の時間感覚で説明し始めるなら、まずその部長が誰をどう教えてきたかを尋ねたい。名前だけ借りれば時計まで借りられるわけではない。
部長が部下を待たせた時間を、指導の深さへ数えることはない。長嶋の名を持ち出す前に、まだ何を教えたかが抜けている。古参の話を聞く持ち時間だけは短く見積もるようなら、その時計の配り方から直す必要がある。
早く着いたら、予定を前倒しさせない
待機できる場所を確認し、受付が必要なら、約束の時刻と早着したことを伝えて案内に従う。
ロビー等で待てるかは施設による。勝手に執務室へ入らず、近隣で安全に時間を調整する。指定の入館手続きを先に済ませる必要があるなら、担当者を今すぐ呼ぶ意図ではないことも伝える。待機中も通路や他の来客の邪魔をしない。
早く来たのだから会って当然だ、という人がいる。約束を守ったのではなく、自分で約束を作り直している。
私は五分前行動という標語を嫌いではない。ただ、その五分を相手の仕事から取り上げるなら、行動の向きが逆である。
遅れそうなら、約束時刻より前に知らせる
遅れが見えた段階で連絡し、到着見込みと、そのまま訪問してよいかを確認する。
見込みが分からなければ、分からないことと次に連絡する時刻を伝える。「あと少し」を繰り返すより具体的だ。運転中や危険な場所での操作はせず、安全を確保して連絡する。移動の都合を長く説明する前に、相手が予定を調整できる情報を渡す。
遅刻の説明が十分間続くと、遅れた時間へさらに自分で上乗せすることになる。事情はあるだろう。だが、相手が今知りたいのは次の予定である。
昔の巨人の時間まで正確に覚えていても、今日の訪問時刻を忘れてはいけない。懐かしさは帰り道へ取っておけばよい。
まとめ
近くへの到着と受付を分け、通常は受付5分前を目安にしつつ、施設の指定と相手の予定を優先する。
長嶋の一分が短かったという松井の回想を、会社の部長が自分の時計へ移す必要はない。私は、その人が見ていた次の一振りまで知らず、数字だけ真似する話には点を付けない。
訪問は相手の受け入れ条件を確かめ、早すぎても遅れても用件を伝えればよい。ただ、古参が仕事の経緯を話す時間まで、受付と同じ分刻みへ入れるつもりはない。訪ねる前の約束と、教わり始めた後の順序は違う。
若い者の挨拶は短く終え、その後で部長だけ昔の説明を聞く。次の予定があるなら、続きの日を部長が用意すればよい。先輩へ短くしてもらう方から手を付ける必要はないのである。
私は、来た時刻が正確だっただけで、その部長の訪問を満点にはしない。帰る前に何を教わるべきかは、まだこちらの時計にも用事が残っている。











