一人が間違えたので、次から二人で確認する。二人で見落としたので、上司にも見てもらう。こうして確認者の欄は増えたが、何を見ればよいのかは最初から書かれていない。人数だけは、仕事が改善したように見える。
私は、二人で見ることを無駄だとは思わない。ただ、二人目が一人目の印を見て安心しているなら、見ている物が違う。書類を確認しているつもりで、同僚が仕事を終えたことを確認しているのである。
ダブルチェックは意味がないのか
人数を増やすだけでは、見落としを防げるとは限らない。何の誤りを探し、どの根拠と照合するかを決める必要がある。一般的な事務作業なら、担当者の「確認済み」という結論だけを追わず、確認者も元の資料と成果物を照らし合わせる方法がある。
巨人の末次利光は、荒川道場で王貞治のスイングを見ていたときのことを語っている。足の親指の動きでタイミングを取っていると気づき、王に伝えたという。末次の回想では、王自身は意識していなかった動きだった。
王が間違っていたという話ではない。見る側が、どこで何が動いているかを見ていたのである。王だからよい打撃だと思いました、では、その場にいたという報告にしかならない。打つ本人にさえ意識されていないものを拾う目があった。
書類を見る目にも、中身を見た跡が欲しい。部長が確認したので間違いはないという説明なら、部長の名前を見ただけではないか。確認する人間を増やしたのに、全員が同じ名前を頼りにしていてどうするのか。
確認項目はどう具体化すればよいか
「内容に誤りがないか」ではなく、「対象月は依頼書と一致するか」「転記した件数は元の一覧と一致するか」のように、対象と照合元を組にする。重要な項目は確認した値や参照先も残すと、何を確かめたかを後から追いやすい。項目は業務のリスクに合わせて選ぶ。
たとえば月次集計なら、対象月、件数、合計値をそれぞれ何と比べるかを決める。合計だけ合っていても、別の月の資料かもしれない。一覧同士が一致していても、片方をそのまま写したものなら、元の間違いまで揃っているかもしれない。
全部をよく見る、という指示は便利だ。何か見落としても、全部と言っておいたと説明できる。しかし、その言葉の中には、確認する人の目をどこへ向けるかが入っていない。責任を広く取らせる言葉と、確認できる指示は別である。
末次が王の足を見ていた話から、私はスイングの見物にも差があると思う。打球が飛んだ方だけ追っていれば、足の親指は見えない。人を増やす前に、今いる人がどこを見ているか。巨人の練習を見るなら、そのくらいは説明してもらいたい。
先に確認した人へ誤りを言いにくいときは
人の評価ではなく、資料と値の不一致として伝える方法がある。たとえば「依頼書は10月、集計表は9月になっています。対象月はどちらでしょうか」と確認する。判断が必要な不一致は未解決のまま完了扱いにせず、決められた責任者へ戻す。管理側には指摘を受け止める手順も必要になる。
巨人の吉田孝司は、川上哲治監督には、挨拶をするにも直立不動になるような緊張があったと振り返っている。あのころの巨人には、監督を前にするだけで姿勢が変わる重みがあった。それを、会話が少ないから何も見ていなかったと片づけるつもりはない。
しかし、書類の数字を確かめる場で、部長が相手だと値が変わるわけではない。ここは違っていますと言うたびに、誰に向かって言っているのかと返されたら、確認係は数字より部長の顔を見るようになる。部長が見てほしかったのは、どちらなのか。
私は、指摘があっただけで面目がつぶれたと思う管理職には、まず確認役を置いた理由を聞きたい。自分に賛成する人を一人追加したかったのなら、チェック欄と書かずに、そういう欄だと説明したらどうか。若い者が間違いを見つけることまで失礼に数えては、何を探せばよいのかわからない。
ミスが続いたら確認回数を増やすべきか
回数を増やす前に、誤りが入った工程と見逃した理由を一件ずつ調べる。転記を減らす、入力条件を整える、元データの誤りを直すなど、確認より前の工程も見直せる。修正後は影響する箇所を再確認する。必須の点検を減らす判断は個人でせず、医療や安全に関わる専門業務では所定の手順を優先する。
見つけた一か所だけ直して終わると、同じ元データから作った別の表には間違いが残ることがある。どこから来て、どこへ渡ったのかを追う。人を叱る人数を増やしても、数字の通り道は見えるようにならない。
便利な機能を使うことにも異論はない。ただ、機能を入れた翌日から、見る目まで要らなくなったように扱うのは早い。何を入力したら、何を検出するのかを確かめる人は残る。画面が緑になったから王の打撃までわかったというような話は、私は認めない。
そもそも、王を実際に見てきた人間と、記録の数字だけ読んだ人間を、同じ確認者の欄へ押し込めてよいのか。欄を揃える都合で、見てきた年月まで同じにされては困る。整理するなら、まずその違いがわかる表であってほしい。
まとめ
ダブルチェックは、人数だけでなく確認対象・照合元・結果の記録を具体化して考える。先の人の結論だけを追わず、不一致は解決してから次へ渡す。ミスが続く場合は、確認回数だけでなく、元データや作業工程も責任者と見直したい。
末次は、王が振っているから安心して目を閉じていたのではない。本人が意識していないところまで見ていた。確認者という名前をつけるなら、少なくとも何を見たかは残っていなければならない。
そのうえで、王を目の前で見た者の欄は、別にしておけばよい。若い人の確認も必要だということは認める。しかし、同じ大きさの枠を二つ並べれば、同じ重さの目になると思われては困るのである。









