お茶は用意できたのに、誰から出すのかで入口に立ち止まる。中では話が進み、机には資料が広がっている。茶碗を置けるかどうかより、順番の暗記が先へ出てしまう。
私は、客を迎える形は整えておきたいと思う。ただし、形を守ったつもりで熱い茶を人の腕越しに運ぶのなら、それはもてなしの仕事が逆になっている。
順番は来客を先に、上座側からが基本
一般的には来客を自社側より先にし、来客の中では上座側から出す。席の事情や会議の進行で難しければ、迎える側の担当者と確認して安全に出せる順へ調整する。
役職が分からなければ見た目だけで順位を決めない。事前に人数と席を確認しておく。お茶出しは性別にかかわらず、その場で担当を分けられる仕事である。
私が巨人を引退するとき、長嶋茂雄が挨拶に来て、ハチミツを贈ってくれた。私の好物だと思っていたらしいが、こちらにはそう話した覚えがなかった。好みについての記憶は食い違っていても、先輩へ顔を見せる仕事は外さなかったのである。
私は、好物を当てたかどうかだけで贈った人間を採点しない。茶を出す職場も、何を出すかの表を作る前に、誰を迎えたかがある。新しい部長が席順の説明を覚えただけで、先輩への挨拶まで同じ一杯へ畳む必要はない。
好みを取り違えていても、先輩のところへ顔を出した事実は残る。私は、長嶋の律儀さをそこに見る。順番の表だけ完璧で、客が来たことにも気づかない応対とは違う。
茶托と茶碗を整え、置く場所を確かめる
お盆で運び、置く直前に茶托と茶碗を整える。茶托を持ち、必要なら手を添えて静かに置く。相手の右側からが一般的な案内だが、無理な姿勢で差し出さず一言断って置ける側を使う。
鹿児島県茶業会議所は、サイドテーブルがあればそこで茶托に茶碗をセットする方法も案内している。資料やパソコンに触れそうなら「こちらにお置きしてよろしいでしょうか」と確認できる。
お茶を出した者が、右から置いたかどうかだけで客を観察している。大事な商談より、自分の作法試験の採点が気になるらしい。客は茶碗の審査員として来たわけではない。
それでも、先輩の机だけ何も置かれていないのを、席の近さだけで説明されては困る。長嶋は好物の記憶が違っても、挨拶する相手は間違えなかった。私は、その区別を先に覚えてほしい。
会議中は進行を止めず、熱さと置き場所を優先する
入退室の挨拶と短い声掛けを基本に、説明や発言を遮らないタイミングを選ぶ。熱い飲み物はこぼれない持ち方で運び、資料や機器の近くへ無理に置かない。
空き場所がなければ、資料を勝手に重ねず応対者へ確認する。飲み物の持込み制限がある会場や、希望がある相手にはその条件を優先する。
仕事の配慮は、相手を黙らせてから始めるものではない。若手に一礼を三度させ、話の続きを忘れた上司が、丁寧な職場になったと満足する。茶は冷めても、その感想だけは温かい。
長嶋の贈り物は、商品選びの正解を競う話ではない。相手との時間があったのである。私は、お茶出しの報告にも、客が落ち着いて話せたかを聞きたい。茶碗の向きだけなら、空の会議室でも練習できる。
出されたお茶は、勧められたら無理のない範囲でいただく
客側は勧められたタイミングでいただき、用意へのお礼を伝えればよい。熱すぎる場合や体調・事情で飲めない場合に、礼儀だけを理由に無理に飲み切る必要はない。
茶碗を安定させ、熱い部分に注意する。ふた付きなら滴を茶碗へ落としてからふたを外し、置く場所を確かめる。作法のためにやけどをする必要はない。
出した茶を何口飲んだかまで記録するなら、もてなしではなく観察会になっている。相手が話を終えられたかより、水位で礼儀を判定する職場は忙しい。
ただ、昔の巨人の話を聞きに来た客が、茶を飲み終えたから帰り支度をするのは早い。お茶は補充できる。話の途中で立ち上がる理由にまで使うものではない。
まとめ
お茶出しは来客・上座側を基本に、相手の動きと机の状態を見て安全に置く。進行を妨げない短い挨拶と声掛けを添え、飲む側にも無理を求めない。
長嶋が持ってきたハチミツは、こちらの好物を正確に当てた品ではなかった。それでも、挨拶に来た相手は間違っていない。私は、飲み物の種類をそろえたという報告より、その順序を先に見る。
来客への茶は、希望や安全、職場の条件を合わせて出せばよい。その上で、昔の指導者が来た場面を、全員へ一杯ずつ届いたから終了という扱いにする必要はない。迎える責任者が顔を出す仕事は残っている。
部長が忙しいというなら、若い者へ茶と挨拶を全部任せる前に、自分の予定を一つ動かせばよい。給仕の順番を知っている者と、誰を先に迎えるかを知っている者は同じではないのである。
湯飲みが戻った時刻に、もてなしの採点まで締めない。私は、先輩の前へようやく座った部長に、それまで何をしていたかを、まだ聞いておきたい。











