仕事の目標が思いつかない。そう言う人に、十年後の理想を聞く会社がある。来週の担当さえ曖昧なのに、十年後だけは鮮明にしろという。私は、目標欄を大きくする前に、仕事の輪郭をはっきりさせた方がよいと思う。
目標の材料は、立派な夢とは限らない。いつも差し戻される書類、説明に時間のかかる作業、誰か一人しか分からない手順。そのうち一つを、いつまでにどう変えるか。まずはそこからで十分だ。ただし、小さく始めることと、小さな顔で済ませることは違う。
目標が出てこないなら、今の担当業務を並べる
普段の担当業務を書き出し、「困っていること」「任されたいこと」「部署で必要なこと」が重なる箇所を一つ選ぶ。役割が不明なら、目標案を作る前に上司と担当範囲を確認する。担当外のことまで一人で背負う必要はない。
たとえば毎月の資料作成なら、集計、確認、提出のどこに時間がかかるか。問い合わせ対応なら、答えを探すのか、相手の用件を聞き直すのか。仕事を分ければ、目標の候補も出てくる。「会社に貢献する」だけでは、朝からどの机へ行けばよいのか分からない。
私なら、立派な言葉を三つ並べる人より、昨日どこで手が止まったかを話せる人の案を先に聞く。もっとも、長くその仕事をしてきた先輩が黙って座っていれば、そちらの話も先に聞く。現状を調べる順番にも、順番というものがある。
高い目標より、今の実力から届く幅を考える
過去の実績と使える時間・人手を確かめ、少し工夫すれば届く目標案にする。現状が分からない場合は、まず一定期間記録を取り、その結果で基準を相談する。根拠なく前年比や達成率だけを上乗せしても、やり方は決まらない。
巨人で王貞治を指導した荒川博は、東洋経済のインタビューで、川上哲治から育成を託されたときのことを回想している。求められたのは、本塁打二十五本、打率二割七分を打つ打者にすることだったという。それ以前の王の本塁打は、三年間で七本、十七本、十三本だった。
のちの王を知っていれば、二十五本は控えめに見える。しかし、これから育てる相手を、育ったあとの成績で測っても仕方がない。川上が荒川に渡したのは、後世の王の肩書ではなく、その時点の王から目指す数字だった。私は、こういうところに昔の巨人の仕事の細かさを見る。
今の会社なら、まず世界一という見出しをつけ、その下の手順は若手が埋めるのではないか。二十五本では夢がないと言う人ほど、昨日十三本だった人を明日どうするかは話さない。大きな目標を掲げるなら、指導する側も大きくなる必要がある。文字の大きさだけを変えても、川上にはならない。
目標の書き方は「何を・どこまで・いつまでに」
目指す成果、確認できる基準、期限をそろえ、そのための行動を添える。「頑張る」だけでは判定できず、行動回数だけでも成果が見えにくい。次の例は考え方を示す仮の案で、どの職場にも通じる標準値ではない。
- 資料作成:来月末までに集計手順を整理し、同じ条件の資料で作成時間を三十分から二十五分へ短縮する。提出前の確認項目は残す。
- 問い合わせ対応:二か月以内によくある問い合わせ十項目の回答案を作り、担当者の確認を受けてチーム内で参照できる状態にする。
- 新しい業務の習得:三か月後までに定型作業一件を手順書に沿って担当できる状態にし、月末ごとに先輩と習得状況を確かめる。
「勉強する」なら何に使うのか、「効率化する」なら何を減らして何を残すのか。自分の行動で変えられる部分と、他部署や顧客次第の部分も分けておきたい。自分では決められない返事まで、必ず来ることにしてはいけない。
ただ、私は欄が整っただけで感心することはない。美しい目標案を見せられると、これを書いた時間で手順を一つ覚えられたのではないかと思う。もちろん、先輩の赤字が入っている紙は別だ。文章は多少長くなっても、誰に見てもらったかが分かる。その厚みまで削る必要はない。
数字にしにくい仕事は、完成した状態を決める
無理に件数へ置き換えず、成果物・使える状態・確認する人を決める。途中で役割や業務量が変わったら、決めた確認時点で目標も相談し直す。「達成のために数字の数え方を変える」のと、「条件が変わったので案を見直す」のは別の話だ。
引き継ぎ資料なら、ページ数を増やすより、後任が定型作業を試して不足を直した状態を目指す方が具体的だ。件数にならない仕事もある。だからといって、完成したかどうかまで分からなくする理由にはならない。
目標案ができたら、部署で今必要なことと合っているか、通常の勤務で取り組めるか、途中で誰と何を確かめるかを相談する。日々の仕事を振り返る材料の残し方は、仕事の振り返りを次の行動につなげる考え方でも扱っている。目標欄だけを整えて、現場の材料がないままにしないことだ。
それでも私は、出来上がった資料の隅に、教えた人の名前も残しておきたくなる。本人が一人でできるようになれば、教えた人の姿は見えなくなる。未来の目標を立てるからといって、過去に教えた人まで欄の外へ出すことはない。空欄が足りないなら、そこは増やせばよい。
まとめ:目標は大きな言葉より、今の仕事から
仕事の目標が思いつかないときは、担当業務と困りごとを並べ、現状から変えたいことを一つ選ぶ。何を、どこまで、いつまでに。数字にしにくければ、出来上がる物や使える状態で確かめる。条件が変われば、途中で相談し直せばよい。
王の二十五本を小さいと言う前に、その王がまだ十三本だったことを思い出す必要がある。私は目標の数字だけでなく、その横に誰が座っているかを見る。若い人の未来を任せる席には、昔を知っている人が一人ぐらいいた方が、私も安心して口を出せる。










