「失礼します」と言ったあと、両方が切るのを待っている。静かな綱引きのような時間である。礼儀を守ろうとして、用件のない通話を延長している。
私は電話の最後を雑にする人も気になるが、切る順番だけ立派で、何を頼まれたか残っていない人はもっと気になる。終話は最後の確認まで含めて一つだ。
電話は用件を確認し、挨拶してから切る
日付・名前・次の対応を短く確かめ、相手の返答を聞いて終話の挨拶をする。
例えば「それでは、○日までに見積書をメールでお送りします。よろしくお願いいたします。失礼いたします」と、約束した行動を先にまとめる。相手が追加で話し始めたら遮らない。店や会社の応対ルールがある場合は、その終話手順を優先する。
電話をかけた目的が何だったか、最後まで戻ってこない話がある。挨拶は滑らかなのに、次に誰が何をするかだけが滑って抜けている。
私は受話器の置き方より先に、約束の置き場所を確かめたい。相手の記憶へ置いたまま帰るのは、仕事を引き渡したことにはならない。
切る順番は目安として、無言の待ち合いを長引かせない
取引先などの終話を待つ配慮はあるが、互いに待っている場合は一言添えて静かに切る。
かけた側が先に切るという案内もあれば、顧客の終話を待つという案内もある。相手との関係と職場の運用を踏まえ、「それでは、こちらで失礼いたします」と終わりを知らせればよい。固定電話は受話器を乱暴に置かず、スマホでも相手の声を途中で切らない。
どちらが先かの正解を探して、両方が何も言わずにいる。そんな礼儀なら、最初から一言増やせば済む。私は沈黙を長く保ったほうが勝つ競技だとは聞いていない。
終話を一つの上下関係で採点する前に、何を話し終えたかがある。ただ、担当者の伝言と、先輩が教えてきた内容を同じ短さへそろえる必要はない。受話器を早く置くことが、聞くべき話を早く終える権利になるわけではないのである。
長引く電話は、次の対応を決めて区切る
すぐ答えられない内容は確認事項と折り返しの方法を整理し、できない約束をして終わらせない。
「確認のうえ、○日までにご連絡します」など、実際に守れる範囲を伝える。時間が読めないなら、見通しを知らせる時刻を決める。話を遮ってよいという意味ではないが、同じ内容の反復が続くなら、要点を復唱して区切る案を出す。
石毛宏典は、後年、私から電話で東伏見のグラウンドへ呼ばれたことを回想している。行くと若い選手がいて、初めは私の指導を座って見ていたが、その後で自分が教える側になったという。石毛は、自分の理論も認められているようでうれしかったと受け取った。
私は、電話を切ったところで、教える者と教わる者の役まで閉じたとは考えない。用件を短く確認した部長が、そのまま先輩の説明を聞く時間まで省く必要はない。切った回線の先にも、任せてよいかを見る仕事は残っている。
私はこういう話を聞くと、返事の前に用件を聞く人を責められなくなる。暇かどうかと、引き受けるかどうかは同じではない。
途中で切れたら、再連絡の行き違いを防ぐ
通信が途切れた場合は、一般にかけた側からかけ直す目安を持ち、職場で対応を揃える。
再接続後に「途中で切れてしまい失礼しました」と伝え、最後に確認できた箇所から再開する。相手の声が届かず切る必要があるときも、可能ならその旨を伝える。長い通話の後は、日付や金額など重要な約束を決められた記録先へ残す。
切れたことを好機として、都合の悪い質問まで消えたことにしてはいけない。機械の不調と用件の消滅は、別の出来事である。
私は短い電話が好きだ。だが、もう一度同じ確認をするためにかけ直す短い電話が三本来るなら、最初の一本を少しだけ丁寧に終えてほしい。
まとめ
用件と次の対応を確認し、挨拶し、相手への配慮と職場の手順に沿って静かに終える。
東伏見へ呼ばれた石毛は、私の指導を見るところから、自分で選手を教えるところへ進んだ。その流れを、自分への評価として受け取っていたという。私は、電話の長さだけで頼んだ仕事を量らない。
終話は、要点と次の対応を確かめ、相手の言葉を遮らず終えればよい。ただ、通話の終了時刻に、昔の指導者の採点まで合わせる必要はない。電話を切る仕事と、誰へ任せるかを決める仕事は別なのである。
教えた者から続きを聞く部長には、話す側へ早く終わるよう求める前に、自分の予定を空けてもらいたい。若い担当者の用件が短くなった分、上司の勉強が長く残っても構わない。
受話器を置けば、電話係の手は空く。それを見て、部長まで教育を受け終えたつもりになられては困る。こちらの最後の一言は、終話の挨拶とは別に残せるのである。











