資料の中身は揃った。数字も確かめた。ところが、見出しの言い方が気になる。直すと、今度は前の見出しと釣り合わなくなる。夕方になって、朝と同じ内容の資料が、少し違う顔で机に残っている。
丁寧な仕事を否定するつもりはない。ただ、自分で気に入ることと、相手が使えることは別である。いつまでも手元に置けば、少なくとも相手には一度も使われない。その点だけは、たいへん確実だ。
完璧主義で仕事が終わらないとき、何を見直すか
仕事の目的に必要な修正と、好みで繰り返している修正を分ける。依頼者が何に使うか、必須の内容、期限、確認する人を確かめ、提出できる条件を共有する。「自分が納得するまで」を唯一の終了条件にしない。
松井秀喜は、長嶋茂雄から受けた寮での素振り指導を振り返り、振った音がどこで出るかまで確かめられていたと話している。初めから本人にも、その違いが分かっていたわけではなかったという。
私は、指導者が見ている場所を持っていたところを買う。何となく巨人らしく振れ、と言って立っていたのではない。会社の上司が、何となくよくなってから持って来いと言うなら、何を見ればよいかは部下にも上司にも残らない。気に入らないという感想だけは、何回でも出せる。
「80点で出す」と考えてもよいのか
点数を一律に決めるより、外せない条件を具体化する。社内検討用のたたき台なら見出しや仮の配置を残せる場合があるが、未確認の数字や未承認事項は明示する。安全・法令・契約・個人情報などに関わる必須の確認は、完成度の割り引きで省かない。
全体で八割できたという説明では、残りの二割がどこか分からない。表紙の余白なのか、判断に使う金額なのか。表紙がきれいだから金額は後でよいという足し算は、受け取る者が困る。仕事の採点表は、面積で埋めるものではない。
長嶋が見ていた音の違いを、素振りの回数で埋めた話にはできない。松井だからといって、今日の途中経過も全盛期の数字と同じになるわけではないのである。会社でも、よく働く者が作ったから数字は合っているだろう、と人柄を検算に使う上司は、まず自分の計算方法を改める必要がある。
完成前に見せるときは、何を伝えればよいか
途中版であること、できている範囲、未確認の箇所、今判断してほしい点を添える。「構成を先に確認したいです。金額は照合中で、外部送付はできません」のように、見せる目的と使用できる範囲を分ける。共有先や機密の扱いは職場のルールに従う。
未完成と書けば何を出してもよいわけではない。相手が何を見ればよいか分からない物を渡して、早めに相談しましたと言っても、相談の順番だけ先に来たことになる。反対に、構成を見る段階で文字の幅ばかり直す上司も、まだ自分の出番を確かめていない。
教わる途中の松井が、完成した打者でなければ長嶋に見てもらえなかったのなら、あの指導は始まらない。できていない段階を見るのも、教える者の仕事である。部下が完成させてから確認する係と、自分で育てた指導者の名前を、同じ欄に書くのは早い。
提出直前の修正は、どこで止めるか
合意した条件と必須の確認を満たしたら、残る修正が目的や判断に影響するかで分ける。影響しない装飾の変更は次の版へ回せる。重要な未解決事項があるなら黙って提出せず、範囲・期限・分担を責任者と調整する。変更後に必要な再確認も残す。
松井は後に、自宅でも求める音を確かめられるようになったと話している。いつまでも、見てもらうまでは何も分からないままにしておいたのではなかった。上司が不在だと表紙の色すら決められない部署を作って、自分が必要とされていると喜ぶのは、指導の成果としてどうなのか。
もっとも、松井が長嶋から受け取った基準と、昨日配られたひな形を、自分で判断するための資料という一言で同じ重さにする必要はない。新しいひな形に欄がないからといって、昔の巨人で教わったことまで記入不要にはならない。私なら、書式を作った者に、なぜその欄を抜いたかを先に聞く。
まとめ
仕上げが終わらないときは、使う目的と提出条件を依頼者と合わせ、必須の修正と好みの変更を分ける。途中版は確認してほしい点と未確認箇所を明示し、重要な問題は調整してから渡す。負荷や心身の不調が続く場合は、一人の仕事術だけで抱え込まず相談につなぐ。
私は、見出しの言葉を何度も入れ替えているだけなら、一度相手へ渡せばよいと思う。使える物が届く方が、いつか完璧になる予定より役に立つ。ただし、巨人の昔の指導を、会議資料の文字数に合わせて短くすればよいとは思わない。
長嶋が松井の何を見ていたか。その説明を削って、熱心に教えた、で済ませるのは雑である。表紙の色は、もう直さなくてよい。先輩がどう教えたかを書くところには、まだ余白を残しておく必要がある。










