安く買えたと喜んだ物を、もう一度買いに行く。最初の物がすぐ壊れたのか、欲しかった使い方ができなかったのか。店へ向かう理由は違っても、前の買い物が終わっていないことだけは同じである。
そこで、次からは高い物にしよう、と決めるのも早い。前は安さに判断を任せ、今度は高さに任せる。それでは値札の向きが変わっただけで、品物を見たことにはならない。
安物買いの銭失いとは、どういう意味か
「安物買いの銭失い(やすものかいのぜにうしない)」は、安く買った物の品質や使い勝手に問題があり、買い直しなどで結局かえって損をすることをいう。安い商品がすべて悪い、高価な商品なら必ず得、という一般法則ではない。値段だけでなく、必要な役目を果たせるかを見ることが大切になる。
壊れた物の値段を見て、安かったから仕方ない、と言う。それで同じ物を同じように買い直すのなら、仕方ないという言葉が、次の出費を許可している。安かったことと、もう一度選ぶ理由は、別々に説明できたほうがよい。
巨人へ張本勲が加わることになったとき、高田繁は、左翼では自分の出番がなくなると考えたと話している。そこで長嶋茂雄監督のもと、外野から三塁へ転向した。高田には、子どものころから内野を守った経験がなかったという。
私は、名前を加えたことだけで、チームの説明を終える気にはならない。張本が来た。そのあとで、高田がどこへ行き、何を覚えるかが残った。会社でも、新しい機械を入れた報告は立派なのに、使う者の仕事は、届いてから考えることがある。
安さより先に、何を確かめればよいか
用途、使う頻度、必要な大きさ・機能・対応条件を先に決め、公式の仕様や実物で確かめる。耐久性は価格や見た目だけで断定せず、想定された用途、保証の範囲、修理や交換部品の案内も確認する。販売元や問い合わせ先が不明確な品は、安さだけで購入を急がない。
丈夫な物が欲しい、とだけ言うと、何をしても壊れない物を探すことになる。毎日持ち運ぶのか、家の中で置いて使うのか。そこが違えば、重さも大きさも評価が変わる。必要のない頑丈さを買って、重いので持ち歩かないという話では困る。
高田は、肩と送球には自信があり、三塁で難しかったのは前へ出る緩いゴロだったと振り返っている。外野でうまかった、内野は初めてだった。その二つの言葉の間に、できる動きと、覚える動きがあった。
何でもできる選手が欲しい、とだけ言う巨人の指導者にも、そこを聞きたい。どの打球が不安なのか。どの送球は任せられるのか。万能という言葉で探しているうちは、教える場所が一つも決まらない。機能の多い品物を買えば、自分の用事まで整うと思う人と、見ているところが似ている。
買った後の費用や手間は、どう比べるか
本体価格だけでなく、消耗品、電気代、手入れ、修理など、使う期間に必要な費用を確認する。同じ用途・期間で比較し、分からない寿命や修理費を都合よく決めない。家電の年間目安電気料金は比較の参考になるが、実際の料金は使用条件や契約によって変わる。
架空の例だが、三年間使い、ほかの費用がないと仮定する。本体三千円で年千円かかる物は計六千円。本体五千円で年二百円なら計五千六百円になる。本体の安いほうが四百円高くなる計算である。これは考え方を比べる例で、実際の製品の価格や寿命を示すものではない。
高田は、三塁転向が決まった翌日から多摩川で練習し、長嶋が直接ノックを打ったと話している。強い打球を受けながら、新しい役目へ移っていった。三塁へ名前を書いたら、三塁の仕事も済んだわけではなかった。
新しい道具を入れて、あとは慣れて、と言う会社の責任者にも、その翌日がある。買ったあとに残る説明や手間を、使う者の努力へ全部移せば、見積書の金額は安く見える。私は、見積書に載らない仕事を消してから、安く済んだと言う者の計算は信用しない。
安い物で十分な場合は、どう判断するか
必要な機能と安全面の条件を満たし、予定の頻度や期間で使える見込みがあれば、低価格の選択肢も候補になる。使わない機能のために予算を超える必要はない。不明点が残る場合は販売者へ確認し、通販では返品・交換や保証の条件も購入前に読む。高額品を買うこと自体を失敗の予防策にしない。
人の感想で仕様の判断まで決めてしまうなら、口コミの読み方も関わってくる。そもそも予定になかった買い物なら、衝動買いを減らすための確認とは別の段階である。必要な品を比べる話と、買う用事を後から作る話を一緒にしない。
高田は三塁で、自分をうまく見せようとは考えず、長嶋のまねはできないと分かっていたとも話している。長嶋の位置を守ることと、長嶋の動きを全部そろえることは違った。必要なところを果たす者まで、足りないところの多い代用品と数える必要はない。
ただし、昔の巨人で誰に何を教わったかという話まで、必要な機能の一覧から外すことには賛成しない。高田の守備だけ見て、そこへ来るまで長嶋が打ったノックを余計な手間に数えるなら、出来上がったものだけを安く引き受けたい側の都合である。
まとめ
安物買いの銭失いは、安く買った物の買い直しなどで、かえって損をすること。防ぐには、用途と必要条件を先に決め、本体だけでなく使う期間の費用・手間・保証も比べる。安い物を一律に避けたり、高い物なら安心と決めたりせず、予算の中で役目を果たせる物を選ぶ。
私は、買った値段だけで得をしたとは認めない。使えるところまで何を確かめ、何を覚えたか。その説明が残れば、次の選び方も変わる。値引きの話だけが詳しくなっていくのでは、買い物の経験より、値札の記憶が増えている。
ただ、長嶋のノックを受けた時間まで、短くしたほうが得だったという計算には入れない。いまの会社の説明会は、長ければ費用を数える。昔の巨人で先輩に教わる時間は、長いほど中身があったものとして扱う。その二つを同じ一時間に直すから、計算が合わなくなるのである。









