旅行の予定を立てたら、朝から晩まで空欄がなくなった。名所も店もよく調べてある。ただ、駅から歩く時間と、昼飯を待つ時間と、どこかで座る時間がない。現地にいる人間より、予定表の方が元気なのである。
私は、計画を立てることには賛成だ。何も決めずに出かけて、駅前で全員が電話を見つめるのも感心しない。しかし、行ける場所を全部書くことと、その日に回れる順序を決めることは違う。余った候補を残念がる前に、何のための旅行だったかを確かめたい。
旅行の計画は何から決めればよいか
まず日程・使える予算・参加者を確かめ、今回いちばんしたいことを決める。そこから行き先と交通・宿の候補を比べる。費用は宿泊と往復交通だけでなく、現地移動・食事・入場料なども含め、変更や取消の条件を予約前に確認する。
温泉で休む旅なのか、試合を見る旅なのか。行き先が同じでも、必要な一日は違う。宿を取ったあとで、ついでに全部見ようと始めると、休むために出かけた人間が、移動の合間に宿泊することになる。
巨人の篠塚和典は、一九七九年秋の伊東キャンプについて、近くなって何かやるらしいと聞いたが、当初はキャンプだと思っていなかったと振り返っている。今の秋季練習を知ったつもりで、参加する側も最初から全部わかっていたことにしてはいけない。
伊東へ行くという地名だけでは、過ごし方は決まらない。長嶋茂雄の練習と、温泉でのんびりする予定を、同じ旅程のように扱っては困る。幹事が楽しそうに行き先を発表しただけで、参加者まで同じ目的になったと思うのは早い。
観光の予定を詰め込みすぎないためには
外せない予定を先に置き、立ち寄り先は近いエリアでまとめる。交通機関の所要時間に加え、乗換・徒歩・待ち時間・食事・休憩も見込む。帰りの便や宿の到着期限から逆算し、時間が余れば行く場所と、最初から行く場所を分けておく。
地図の上で近い二点でも、出口を間違えれば遠くなる。写真を一枚撮ってすぐ立ち去るつもりなのか、腰を落ち着けて見るつもりなのかでも違う。滞在時間を全部短くして候補を収めたなら、削ったのは予定ではなく、そこで過ごす時間である。
篠塚の回想では、伊東では午前と午後に打撃と守備の練習を入れ替え、夜にはミーティングもあった。疲れ切って話を聞けない選手もいたという。練習に何を求めたかという話と、旅行の客へ同じ日程を求める話は別だ。
予定表なら、夜にもいくらでも書き足せる。だが、朝から歩いた者の足まで、夜の欄を見て元に戻るわけではない。私は、帰ってから旅の反省会をする余地くらいは残したいが、そのために夕飯を急がせるような幹事は、まず本人がその行程を一度歩くべきである。
同行者と行きたい場所が違うときは
予約前に、それぞれの外せない希望と、避けたいことを少数ずつ聞く。歩く量や食事の条件も共有し、全部を一緒に回る以外に、自由時間や別行動を設ける方法も考える。集合場所・連絡方法・費用の分担は、参加者同士で確認しておく。
何でもいいと言った人が、何でも楽しいとは限らない。まだ候補がわからないのかもしれない。幹事に任せると言われたので、自分の見たい物を全部採用した。それでは、相談を省いたことだけが全員共通の思い出になる。
篠塚は伊東で、中畑清に促されて長嶋へ一緒に走るよう言い、長嶋も一周走ったと語っている。最後に選手たちが迎えたことで、監督との距離が近くなったという回想だ。言葉の荒さを旅行の連れに真似させたいのではない。立っている側も一緒に動いたことを、私は見ている。
歩くことを提案する幹事が、自分だけ先に車で宿へ着いていては説得力がない。長嶋は走ったのである。現代の幹事も地図を送っただけで、引率まで済んだような顔をしては困る。ただし、球場の前で私が立ち止まる時間は、全員が歩いた距離とは別に確保しておきたい。
雨や遅れで計画が崩れたらどうするか
移動の安全と、帰りの交通・宿など時刻の決まった予定を優先し、優先度の低い立ち寄り先を減らす。雨天の代案は近い屋内施設や宿で過ごす案を用意する。運行状況・営業日・予約条件は各公式案内で再確認し、危険な天候では予定どおり進むことを目的にしない。
一か所行けなかっただけで、残りの全員を走らせて取り戻そうとするのは感心しない。遅れた時間を、参加者の足から徴収している。店が閉まっていれば別の店にすればよいが、食べる時間まで閉じてしまっては、予定を守ったとは言えない。
伊東での長嶋について、徳光和夫は、選手が引き上げたあとにマウンドへトンボをかける姿を見たとも話している。選手にやらせることを決めた者が、最後に自分の手も動かしていた。私は、終了時刻の欄より、そのあとに残った仕事を誰がしたかが気になる。
旅行なら、帰り道や取消の連絡まで誰かが確かめる。予定変更を宣言して、自分だけ先にくつろぐのでは足りない。それでも私は、帰宅後の写真に球場が一枚もなければ、計画のどこで判断が変わったのかは聞く。行った場所の数だけでは、報告を終えたことにならない。
まとめ
旅行計画は、日程・予算・目的を定め、移動と宿を確かめてから、外せない予定を軸に組む。休憩や待ち時間を残し、同行者の希望を共有する。候補を全部回るのではなく、天候や体調に応じて減らせる計画にしておく。
長嶋が一緒に走った話は、予定を決めた者がその場へ入るという点で、やはり重い。私も球場へ行くと言った以上、自分の足で行く。同行者に写真だけ撮って来てもらって済ませるつもりはない。
一人一つずつ希望を出す方法は認める。ただし、昔の巨人が使ったグラウンドを見る一か所と、若い者が選んだ店を一か所、同じ一件として集計するのは早い。場所は一つでも、そこに積もった年月が違うのである。










