手土産を選ぶとき、相手の顔より先に、店の名前を思い浮かべる人がいる。有名だから安心だという。その店が有名であることは、渡す相手が何を好きかという質問への答えにはなっていない。
私は、珍しい品を探すことに反対ではない。ただ、ようやく手に入ったという話が長くなるほど、受け取る側の仕事も増える。大変でしたねと聞いたあとに、おいしいですねまで用意しておかなければならない。
相手の好みがわからないときは、何を基準に選ぶか
訪問の目的、食べる人、苦手な物や食べられない物を、確認できる範囲で先に確かめる。年齢や出身地だけで好みを決めない。わからなければ「甘い物は召し上がりますか」など短く尋ねられる。食品以外も含め、相手が受け取りやすい物を考え、事前に辞退されている場合は尊重する。
廣岡達朗は、巨人での現役生活を終える際、長嶋茂雄が好物だと思ってハチミツを持ってきたと回想している。廣岡自身には、好きだと話した覚えがなかった。それでも、ありがたく受け取ったという。
ここで、相手の好みを調べればよいという話だけを取り出して、長嶋の挨拶まで落第にする必要はない。品物の見当と、人に向き合う態度は違う。だからといって、気持ちがあれば何を持っていってもよい、という免許ができたわけでもない。
私は、何が好きかを聞かずに、相手のために選んだと胸を張る者には、その相手の何を知っていたのかを聞きたい。巨人の選手だから甘い物が好きだろう、という程度なら、知っているのは球団の名前だけである。
人数・量・日持ちは、どう考えればよいか
食べる人数に合う量と、分けやすさを確かめる。職場では個包装など配りやすい形が候補になるが、一人暮らしへ大箱を選ぶ必要はない。渡す日だけでなく食べるまでの余裕、移動時間、冷蔵庫の空きなども考え、商品ごとの期限・保存表示に従う。常温表示でも、直射日光や高温を避ける条件まで確認する。
大きな箱なら礼も大きいと思うのは、渡す側には都合がよい。受け取った側が冷蔵庫を空け、皿を出し、残った分を誰へ配るか考える。そこまでを、おいしいうちにどうぞの一言で引き渡してしまう。
長嶋のハチミツの話から、瓶の大きさや値段まで想像して、豪華な贈り物の実例にするのも早い。わかっているのは、本人が覚えている挨拶と、好みの食い違いである。知らない箱の中身まで立派に整える必要はない。
巨人の幹部が、たくさん持ってきたからよく気が利くと言うなら、受け取ってから誰が扱うのかも見てもらいたい。品数が多いことと、相手の手間を数えたことは違う。箱を並べた写真だけでは、そこまでは写らない。
手土産の予算は、高いほど丁寧になるか
高価であるほど丁寧とは限らない。訪問の目的と関係、自分の無理のない範囲で決め、相手にお返しの負担を感じさせないかも考える。全国共通の正解となる金額はない。仕事上の訪問では、先方と自社の贈答・受領ルールを先に確認し、受け取れない品を押し付けない。
値段で丁寧さを決めるなら、受け取る者は帳簿を見れば済む。ところが、同じ値段でも、相手が好きな物を少し持ってきたのか、自分が持っていきたい物を買ったのかで、話は変わる。
廣岡は、現役時代、長嶋からたびたび誘われたことも振り返っている。一度の立派な贈り物だけで、先輩との付き合いを全部済ませた話ではなかった。私は、箱の値札を詳しく覚えるより、誰がどう声を掛けたかを覚えているほうがよいと思う。
評判だけで選びたくなったら、口コミの理由を読む考え方もある。値段の安さだけが気になるなら、安さと用途を分けて考える選び方になる。どちらも、相手がこれをどう受け取るかという質問を、値札へ代わりに答えさせる話ではない。
手土産は、いつ・どんな一言で渡すか
一般的な訪問では、室内で挨拶を済ませてから渡すのが基本。ただし、玄関で帰る場合や保管を急ぐ物など、状況に合わせる。室内では袋から出して渡すことが多いが、外で持ち帰ってもらうなら袋も添えるなど、扱いやすさを優先する。「皆さんで召し上がれる物を選びました」など短く伝え、保管条件も必要に応じて添える。家庭や地域の習慣を一律に採点しない。
こちらが並んで買った時間まで、玄関で全部聞かせる必要はない。相手は、どれだけ苦労したかを受け取るために待っていたのではない。品物の説明をしている間、挨拶がまだ始まっていないこともある。
長嶋が挨拶に来たことと、ハチミツの好みが合っていたかは分けられる。受け取った品をずっと使うか迷う側には、贈り物と物を残す判断という別の問題もある。渡したから、その後の使い方を報告してもらう権利まで付いてくるわけではない。
ただし、昔の巨人で誰が誰を気に掛けていたかは、品物の一覧より詳しく残しておいてよい。贈った物の名前だけを記録し、挨拶に来た後輩の名前を省くようでは、整理はできても礼の話はできない。
まとめ
手土産は、相手の好み・人数・食べられる物・保存条件から選び、量や予算を無理なく合わせる。渡すときは挨拶と扱いやすさを大切にし、受領ルールや辞退の意向を尊重する。有名店、高い値段、大きな箱だけで礼が整うわけではない。
長嶋の選んだハチミツは、好みという一点では合っていなかった。それでも廣岡の記憶には、挨拶に来た長嶋が残った。品物の選び方を直すことと、付き合いの値打ちまで下げることを、一緒にする必要はない。
若い者の手土産なら、まず何を選んだかを見る。昔の巨人の後輩なら、先に誰が来たかを見る。その違いもわからず、同じ品物だから同じ評価にしましょうと言う者には、贈答の採点を任せられない。










